言葉に出来ぬ胸の暖かさを幸福と呼ぶのなら
この胸の高鳴りはいつだってふたりの幸せそのものだ




普段ラウンジのソファで二人仲良く隣り合って座っていようものなら
これ幸いとばかりに毒を投げられからかわれ一体己れが何をして彼の機嫌を損ねたのかと
間違った罪悪感に囚われ理不尽な謝罪までさせられるはずなのに、
何故か今日の彼は正面のソファに座り大人しく(美鶴が珍しく得意気に選んだ茶器のセットで)紅茶を飲んでいた。
ちなみに紅茶は彼自ら淹れて持ってきたのであって、彼が来るより何時間も前からソファで寛いでいた
二人が退くことはないのだが、やはり以前虫の居所が悪かった彼に進言したところ
(後から聞けば狙ってたコミュが中々発展せずうっかりタイミングを逃したらしく八つ当たりの恰好の餌食だったわけだ)
十倍の嫌味でもって返され同じく機嫌を損ねた先輩に激しく責められたなぁ、と
軽く現実逃避をしながら(責められたし攻められたしあの夜は色んな意味で枕を濡らしたのだが)
同じ轍を踏まぬよう彼の動きを見守っているに留まっている。
そんな微妙な雰囲気を察知したのか、ようやく彼は茶器をテーブルに置いてコトンと首を傾げてなぁに、と呟いた。



「いや…今日、お前変じゃねぇ?」
「そぅ?普段通りだけど」


いぃぃえぇぇぇ、いつもの貴方ならとっくに毒の牙を晒していらっしゃるでしょうに!


などとは思っても後が怖いために口が裂けても言える筈がない。流石にまだ命は惜しい。


「いやでも、なんつーか…こう…」


幸せそう?と伊織は小さく呟く。両手でジェスチャーを交えて説明しようとしていたのが丸分かりで
可愛らしいと真田は横目で見て思う(けれどやはり思うだけで口には出さない)。
それを聞いた彼はふんわりと笑うと僅かに頬を染めて口を開いた。


「順平の割にはよく見てるじゃん。偉いよ順平、ちゃんと進化してるね」


進歩でなくて進化ですか!俺は猿以下ですか!などと心中泣いている伊織を放り、彼は真田に向き直った。


「とりあえず今までのことは一応謝りますねゴメンナサイ。
まぁそんなことよりも先輩達のイチャコラぶりを今後は見逃してあげます」
「……どういう心境の変化だ?」


とりあえずだとか一応だとか聞きたいこと(と書いてツッコミ所と読む)はたくさんあるが、
まずは目先の見逃して貰える点に真田は怪訝そうに片眉を上げた。
今までの彼の言動からは到底考えられないわけで、喜びよりも疑いの方が勝ってしまう。


「やっと俺、先輩の気持ちが分かったんです」
「俺の気持ち?」
「なっ、いくらお前でも真田先輩は渡さないぞ!!」


微妙に意味ありげな発言を勘違いし頬どころか耳まで真っ赤にしてなけなしの勇気で主張した伊織に真田はときめくが、
何処から取り出したのか彼はバス停で(仮にも)クラスメートの頭を殴打し昏倒させた。


「うるっさい。誰がこんな脳筋族の先輩攻めて楽しいんだ。話がややこしくなるから眠ってろ」


伊織が床と仲良くなる前に拾った真田は介抱くらい許されるだろうと
ソファに寝かせて伊織の頭を膝の上に抱えて髪を撫でてやる。
俗に言う膝枕状態だが一瞬目の前にいる彼の眉尻がピクリと上がったのは気のせいだと思いたい。


「実はですね、」






























「……で、すっごい可愛いんですよ。頑張った甲斐ありましたー」
「そ、そうなのか…」


あれから4時間延々と絶好調なまま彼の話した内容を要約すれば、
狙っていた生徒会の役員(名前を小田桐と言ったかそれすらも覚えてないがいやに聞き覚えがある)から
告白させてやっと思いが通じた(しかも告白した台詞を今時使わない風のせいにして
3回も言わせた挙句すべて録音したらしい)と言うことだった。


「それでまぁ、今までちょっとからかい過ぎたと流石に俺も反省しまして」
「はぁ」
「もう俺に構わず存分にイチャコラしてくださっても良いですよ。
代わりにノロケくらい聞いてくださいね。俺たちは寮まで一緒じゃないんで」


むしろ万々歳だ。

「それは…構わないが…さっきの俺の気持ちが分かったって言うのはなんだ?」
「あぁ、だってあんなに可愛い恋人がいるのに襲わずに節度ある行動が出来るなんて尊敬しますよ。
まだ嫌われたくないから自重してますけど」


何だか彼の恋人の将来が垣間見えた気がしなくもないが敢えて指摘することもなく、
ノロケくらいなら聞いてやると真田が頷けば彼は嬉しそうに微笑んで席を立つ。
端の椅子を迂回して隣に立つと少しばかりはにかんで言った。


「こんなにも嬉しくて幸せな気分を壊しててごめんね、順平――だから狸寝入りはやめなよ」
「ぅえぇぇぇ!?ッ、でっ」
「痛ッ!!」


後半低音になった声を恐れたのか慌てて飛び起きた伊織は案の定、
誰の膝を枕にしていたかすっぱりと忘れて頭上にいた真田と盛大に額をぶつけた。
痛みで声が出ず悶絶する二人を呆れたように見下ろしながら溜め息をつく。


「何ベタなことしてんの。――まぁそういう訳なんで、邪魔な俺は自室に戻ります。
後は存分にイチャついてください」


深々と頭を下げてから彼はラウンジを後にする。だが何を思ったのか階段を登る
間際、わざわざ口元に手を当てると、

「真田センパーイ、今度夜のこともご教授くださいねー!」
『!!?』


爆弾発言を落として去って行った(恥じらうこともなくよりによって大声で叫んだ
彼に一体モラルはあるのだろうか)。




しばらく呆然と彼の出ていった場所を見つめていたが不意に思い出したように真田は伊織の額に触れた。


「少し赤いな…大丈夫か?」
「…真田サンこそ」


額を撫でる手を甘んじて受け止めていた伊織に真田は額だけでなく頬に触れ髪を撫でる。
その温もりが擽ったくて少し首を竦めれば真田は柔らかな笑みを溢し小さく声を漏らした。


「…なるほど。つまり俺が思ってることをアイツも思ってるわけか」
「真田サン?」
「いや、俺がお前を愛しく思うように、アイツも小田桐と言う相手を愛しく思ってるんだなと気付いてな」
「何サラリとハズイこと言ってんスかぁー!!」


どうやら不意打ちだったらしい。
アワアワと声にならぬ声を上げる伊織を誤魔化すため、子供をあやすように抱き締めてみる。
低く唸り声を出すも観念したらしく遠慮がちに自分の首に回される腕を見てあぁ、と真田は一人納得する。
こんな些細な喜びが二人の幸せと言うのなら、どうかこの幸せを彼にも分けてやりたい。
だが彼には既に想い人がいるのだから、そんな幸せに気付くのも、きっともうすぐそこ。
だから今は自分の幸せを噛み締めていようと彼らの事は頭の片隅に追いやり、
やり込められてまだ少し不機嫌な己れの姫のご機嫌を取ろうと、真田は伊織に唇を重ねた。



fin.


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氷狩煉サンより強奪・・・いただきました真伊・主小田小説!
いや、かわいいじゃないかじゅんぺww 主人公の性格をウチの主人公テイストで書いてくれたそうで
バッチリですよ、黒いよ黒いwウチの主人公なら問答無用で順平をバス停でボッコにするよ(笑
てか、あんたらリビングで堂々とイチャついてんじゃねーよですよww素敵!(爆

本人は真主スキーだというのに書いてもらっちゃいましたよ、アリガトウ!!
更に主小田まで・・・大好きだ!!こんなにP3にハマってくれるとは、ハメた甲斐がありましたw
マタヨロシク!!(ぉぃ (07,07,04)

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