はじまりのよるに




すべては ここから はじまった この ふかいふかいやみのよるから





緑色の闇の空に月が輝く 天に向かいいびつな塔がそびえる





4月8日―――――影時間



街には棺が立ち並び、アスファルトの上には無数の血溜まりが点在している
全てが静寂と緑色の闇に包まれている


その異様な風景の中を猛スピードで駆け抜ける影が1つ、そしてその後を地を這いずり追う影



「なんなんだよ、コレっ・・・・・・なんなんだよ、なんなんだよ、どうなってんだよぉぉおおおっ!!!」

疾走する青年、伊織順平は叫ぶ。



家路を急ぐ途中、突然に世界が彼だけを残して変わった
順平は状況が飲み込めないまま慌てふためいていた・・・・・・・・・そして、ほどなくしてソレはやってきた。

混乱状態にある順平の無防備な体を闇が斬り裂いた――――臆病のマーヤに攻撃されたのだ
右から左へ腹部にユビ3本分の斬撃 ドレスシャツが裂け、鮮血が飛び散った
突然の強烈な衝撃で後ろの茂みに吹っ飛ばされる、そしてそのまま地を蹴り順平は走り出した。

逃げなければ どこか 身を隠せる所 安全な場所へ――――――
果たして存在するのか分からない場所を求めて、ひたすらに走った



(怖い・・・痛い・・・苦しい・・・助けて・・・何か・・・誰かっ・・・・・・!!!)



どれだけ走ったろうか・・・順平はドアが半開きになっているコンビニを見つけ、そこへ逃げ込んだ
隠れるようにレジカウンターの裏に転がり、そのまま座り込む
真横にはやはり棺 普段ならばそれだけでも十分怖い光景なのだが、順平にはそんな些細な恐怖など目に留まらなかった
順平はまさに今「死の恐怖」に直面しているのだ

「はあ、はぁっ、は・・・・・・ッ・・・ってぇ・・・痛ぇ・・・・・・」

呼吸を落ち着けるように深く何度も呼吸をする、するととたんに腹部の痛みが襲ってきた。
おそるおそる傷を確認する
攻撃されたときの衝撃はもの凄かったが、傷は思っていたほど深くはなかったようだが未だ出血は止まらない
流れ出た血が床に1つ、また1つとシミをつくる

「マジで笑えねぇぞ・・・ちくしょうっ・・・ワケわかんねぇ・・・・・・」

どうにか頭の整理をつけようと必死に考えようとするのだが、頭にノイズのような霧がかかって上手くいかない
(なんか、走馬灯みたいなの見えるしっ・・・俺、死ヌってことかよ!?―――冗談じゃねぇぞ)











ずろり







形容し難い音をたてて、カウンターの上に影が1つ 姿を現した



「ひっ!!」

引きつった声を出し順平がビクッと跳ねた、そして逃げようと身を翻す――その途端、順平は体が固まり動けなくなっていた
反転させた順平の目の前にカウンターの上にいるモノと同じ影がいたのだ
順平の頭から冷たい汗が吹き出る 心臓が張り裂けんばかりに鼓動している 頭が体が細胞の1つ1つが「危険だ」と言う 
だが、順平は動けない 
体は微動だにせず、ゆっくりと視線だけをもう1度カウンターの上に向ける
すると、カウンターの上に這い上がってくる影がもう1つ・・・2つ・・・そして周辺から聞こえてくる這いずるような複数の音






か こ ま れ て ・・・・・・・・・ る ?   う そ   だ ろ っ ・・・・・・


オ レ   こ の ま ま    殺  さ    れ





頭の中が真っ白になる、考えられる未来は 「 死 」 

その時、頭の奥で囁くような 響くような 声がした



『 我 が ・・・・・・ を ・・・ と、れ ・・・ 恐 れ ・・・ な 』



(何のことだよ 誰なんだよ いや、もう誰だっていい――――――助けてくれ!!!)
ゆっくりと眼前の影が動き出す、手のような触手を徐々に順平に伸ばしてくる



(―――――――――――殺られるっ!!?)


「うわあああぁぁぁああぁあああっっ!!!!!」

殺されると思った 考えなど何もなかった ただ思いきり 叫んだ
すると、影の真下から天井に向かい炎が吹き上がり 眼前の影が 消し飛んだのだ
何が起こったのか理解できずキョトンをしていると、それを合図にしたかのように他の影たちが一斉に動き出した


(ヤバいっ!?)





その刹那    







銃声





駆け巡る雷光 途端に霧散して消える影たち

(カミナリ・・・って、コンビニの中だぞ?・・・・・・ココ)
こんな時だというのに、何故か冷静にツッコミが入る



(こんどは 何だ?)

雷鳴の木霊が消えるころ、そこに影たちの姿はなかった。残されたのは、順平ただ1人――――――――そんなはずはない



(今の・・・・・・雷、何が・・・誰が・・・・・・・?)
影たちが消えた安堵と雷の正体が分からない新たな恐怖
もしかしたら、さっきの雷が今度は順平に向かって飛んでくるかもしれないのだ
順平の瞳からボロボロと涙が零れ落ちる 頭を抱え その場に小さくうずくまる
このまま 固く目を閉じて 何も見えなくなってしまえばいい・・・・・・・・・
(怖いのも、痛いのも、もう 嫌だっ・・・・・・・・・)



「まったく、イレギュラーがこんな所にまで・・・」
突然に発せられた人の声
その声に反応してビクッと大きく体が跳ねた。その拍子に近くに置いてあったバケツをひっくり返した
無音の店内に乾いた大きな音が響き渡る


次の瞬間 カウンター越しに 先ほどの声の主と目が合う





人だ。





「お前、適合者か!?」
それが自分に向けられた言葉であることに順平は数秒間気づかなかった

(・・・・・・・・・テキ・・・ゴウ、シャ?)
「ぉ・・・オレ、俺、 影 が・・・・・・追われてっ・・・」
何が言いたいのか、自分でも整理がつかない。頭の中で色々な単語がグルグルまわる。

「落ち着け、敵はもういない。安心しろ、俺も人間だ お前と同じ、な」

(・・・そうか ヒト なのか このひとは)

「お前、自分の名前は言えるか?」

(オレノ・・・・・・ナマエ・・・オレ、ハ・・・・・・・・・オレノナマエハ?)
瞬間、考える。 何でだろうこんなこと 忘れるはず ないだろう?

「オレは・・・順平。 伊織 順平、です。」
たどたどしく、己の名を告げる。

「そうか、その制服 月光館学園の生徒だな?上着を着ていないから分からないかもしれないが、俺も3年だ。真田という」
いきなり話題が身近な話に変わる。全身に一気に安堵感が襲ってくる。

「・・・・・・じゃぁ、真田 センパイだ。 オレ、に   ね ん    の・・・・・・・・・・・・・・・」

喋っている途中、急激に意識が遠のく。思考がいきなり断絶され、その場に勢いよく倒れこんだ
薄れゆく意識のなかで真田サンが何か叫んでいたようだが、聞き取ることはできなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


深い霧が晴れるように ゆっくりと ゆっくりと 意識が 感覚が 戻ってくる


冷たい   流れ込んでくる これは――――――――水?
ひどく乾いた喉にこれはとても心地よい

「もっと、欲しいか?」

まだはっきりとしない意識のなかで問われる
まだ全然 足りない・・・・・・・・・もっと 欲しい。
声は出なかったが、ゆっくりと唇を動かして答えた
すると、すぐにまた口の中に水が流し込まれる 喉を鳴らしてそれを飲み干す
そうして繰り返し、何度も水を与えてもらう。



冷たい  おいしい  きもちいい  やわらかくて  あたたかい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?

急激に視界がクリアになる
見えたのは、ペットボトルに口をつける真田サン。
液体を口にふくみ、そして そのまま オレの唇に―――――口内の水をオレの口に流し込む 
反射的に与えられた水を飲み干し、そして オレの口から出たのは


「ぅ、をぁぁああっぁあぁぇえ!!!??」

動揺・驚愕・狼狽その全てを含んだイントネーションのおかしな叫び。
真田も順平の突然の叫びに驚き2,3歩後ずさる

「なっ、何しっ・・・アンタ・・・・・・なにして・・・!?」

「何って、水をやってたんだろうが」
お前も飲んでたろ、と平然と青年は言い放つ。

「水って・・・な、なんでっ口うつし・・・!?」

「お前が脱水症状を起こしてたからだっ!意識がないんでただ口に水を入れても飲みやしなかったからな・・・」

真田はどこか呆れたような口ぶりだ。

(だからって普通、するか? 男相手に 口うつし・・・アンタはアレか?海で溺れた人助けるライフセーバーか?)

「お前は倒れたんだよ。極度の緊張と疲労、脱水症状に あとは貧血のせいでな」


「貧血・・・・・・?そうだ!オレ、腹ケガしてっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれっ?」
シャツは破れている、血の跡もある、だが。
「傷が、ない?」

「腹部の傷なら治したぞ、出血多量でくたばられても困るんでな」
またサラリとこの男は・・・治したっつったって・・・どうやってよ?

わからない いや、わかっていることなんかなんにもない
まただ、また頭の中にノイズが走る。上を向けば―――――――相変わらずの闇黄色の光を放つ月

瞬間、順平のなかでさっきの恐怖がまた頭をもたげる。
ヒュウ と喉が鳴る

「ッゲホ、ゲホッ・・・っは、はぁ――――――――っぁあ゙!」
急に激しくむせかえる 息が、苦しい 体が  重い・・・・・・・・ 

「おい、しっかりしろ!あまり過呼吸になりすぎるな、いったん息を止めて、深くゆっくり息をするんだ」
言われたとおりにすると、だんだんと息苦しさが和らいでくる。

「・・・・・・は・・・・・・・はぁ・・・・・・はッ・・・・・ぁ、りがと ざいまス・・・」

「まだ辛そうだな、もう少し休んでから移動しよう。大丈夫だ安心しろ俺がついてる」
膝をついている俺の肩をポンと叩いて言う。

ついててくれなくては困る。今の俺は真田サンに頼るしか・・・・・・一人にされたら 今度こそ狂ってしまうかもしれない。


「さっきの炎、あれはお前だな?お前はもうペルソナを使えるのか」
 

ぺる   そな   ?


「その様子だと、自覚はまだないみたいだな・・・・・・面白い」
真田は口の端をクッとあげて楽しそうに笑っている
一体なにが面白いというのか 全然ワカラン

「まぁいいさ、こうなった以上お前の選択肢は1つだ」

真田サンは俺に左手をまっすぐに差し出し   言った。



「俺と一緒に来い、守ってやる」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

街に煌くネオン 人が行き交う深夜の雑踏を抜けて俺は歩いていた 真田サンに手を引かれて。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

思わず足を止めると、真田サンも止まる

「影時間が明けたな、どうだ?気分は」
カゲジカン・・・?てか、なんでオレ こんなとこに・・・ついさっきまで駅前の信号んとこで・・・・・・・・

「憶えていないか・・・まぁ初体験の影時間だったみたいだからな、そんなもんだろう」

頭に手を当て、必死に記憶を辿る
「オレ、憶え・・・・・て?――――――――・・・・・ッツ!!」
突如、眩暈に襲われて足元がふらつき体勢を崩す・・・それを真田が反射的に支える

「大丈夫、記憶が混乱しているだけだ 時間をかけて記憶をたどれば断片的にでも思い出せる」

「ぁ・・・・・・でも、なんか すっげボンヤリだけど、頭ン中に 何か・・・オレ、真田サンに助けられて・・・・・・」


「俺の名前は憶えてるんだな」


一瞬、キョトンとする。
おそらく、学校の中で遠巻きに見たことはあったかもしれないが直接言葉を交わしたことはない
しかし、真田サンの名前はオレの口から何の違和感もなくスルリと出てくる

他の記憶はひどく曖昧なのに、真田サンのことは憶えてる。 そばに いてくれた  嬉しかった。

「・・・・・・・・そっすね、憶えてます」
目の前の真田サンを見てニパッと笑う。


「―――――――――・・・・・・・・ッ」
何故か驚いたような顔。フイッと顔を背けられる

「どしたんスか?」
「・・・・・・・いや、なんでもない」
何故かバツが悪そうだ、オレなんか変なコト言ったかな?


「さぁ、もう行くぞ お前に話さなくてはいけないことが山ほどあるんだ」

そう言ってまたオレの手を引く。それに抵抗することなくオレも足を進める。
大丈夫、この人についていけば きっと 大丈夫。





これが すべての はじまりの 夜より


END


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はいっ、いかがでしたでしょう。初の小説っぽいモノに挑戦してみました。真伊ファーストコンタクト編
思ってたより長ったらしくなってしまった・・・ストーリーきっとどっかで見たことある内容と思われるかも;
まぁあくまでウチの真伊の設定なんで。多分コレ続きます、漫画になるか小説になるかはまだ分かりませんが
色々と読みにくい箇所があるかと思いますが、これから要練習ですな。(06,11,21)